企業のためのマイクロプラスチック対策|事例や具体策
企業のためのマイクロプラスチック対策|事例や具体策

マイクロプラスチック問題は、企業のESG評価を左右する重要な経営課題です。2025年以降、EUでは意図的に添加されたマイクロプラスチックの規制が本格化し、日本でも環境省が企業の自主的取り組みを促進しています。
年間約1,100万トン以上が海洋に流出していると推計され(UNEP)、対策の遅れは法的リスクやブランド価値の毀損に直結します。本記事では、企業が実務レベルで導入可能な具体的対策から、費用対効果を示す事例、社内承認を得るための実行フローまで、担当者が即座にアクションを起こせる情報を体系的にまとめています。
企業にとってのマイクロプラスチック問題 — リスクと規制を短く把握
マイクロプラスチック対策は企業存続に関わるコンプライアンス課題です。国際的な規制強化が進む中、リスクの全体像と最新の法的要請を理解することが適切な対策の第一歩となります。
マイクロプラスチックの基礎(一次/二次・発生経路のマッピング)
マイクロプラスチックとは5mm以下の微小なプラスチック粒子で、「一次的」と「二次的」に分類されます。一次的マイクロプラスチックは製造段階から微小な粒子として生産され、洗顔料のマイクロビーズや合成繊維のマイクロファイバー、樹脂ペレットが該当します。
二次的マイクロプラスチックは、ペットボトルやレジ袋が紫外線や波浪で劣化・破砕し微細化したものです。企業が管理すべき発生源は製品設計から廃棄まで全バリューチェーンに及びます。
繊維産業では洗濯1回で数十万〜70万本程度のマイクロファイバーが排出され、人工芝施設からの流出は日本の河川調査で全体の約14〜25%を占めます(調査年度により変動)。
(参照:マイクロプラスチックに関する取組|環境省、日本の河川・港湾・湖におけるマイクロプラスチック浮遊状況調査|一般社団法人ピリカ)
最新の規制・業界ガイドライン(国内/国際)とコンプライアンス上の注意点
2025年8月の国連INC-5.2会議(ジュネーブ)でプラスチック汚染条約の最終調整が試みられましたが、合意には至らず、交渉は継続中です(INC-5.3は2026年2月7日に予定されていますが、前議長の辞任を受けた新議長選出を主目的とした1日のみの組織的セッションであり、実質的な条約交渉は行われない見込みです)。
EUでは2023年10月にマイクロプラスチック規制(Regulation 2023/2055)が発効し、プラスチックグリッターの一部は即時禁止、その他製品は段階的に規制されます。2025年10月17日からは情報提供義務が開始され、リンスオフ化粧品は2027年、洗剤は2028年、メイクアップ製品は2035年までの移行期間が設けられています。
フランスは2025年から新規洗濯機へのマイクロファイバーフィルター搭載を義務化し、オーストラリアはNational Plastics Planにおいて、2030年7月までに同様の措置を業界と協力して段階的に導入する方針を示しています。
日本は2022年施行のプラスチック資源循環促進法で事業者にマイクロプラスチック使用抑制を努力義務化し、環境省は2024年度版グッド・プラクティス集で自主的取り組みを推進しています。輸出企業はEU規制への対応が必須で、SDSやラベル表記の更新、情報追跡システムの整備が求められます。
(参照:海洋プラスチック汚染を始めとするプラスチック汚染対策に関する条約|環境省、EU プラスチック規制|EnviX)
企業リスク:ブランド、法的リスク、投資家評価(ESG)
対応遅れは3つの重大リスクをもたらします。
法的リスクとして、EU規制への非対応は市場アクセスの喪失や罰則対象となり、国内でも将来的な規制強化で既存製品の販売停止リスクが高まります。
ブランドリスクでは、環境配慮に敏感な消費者からの不買運動やSNS批判により企業イメージが毀損します。
投資家評価では、ESG投資の拡大に伴い対策の不備が機関投資家の投資判断でマイナス評価となり、資金調達コスト上昇や株価への悪影響につながります。2023年G7広島サミットで2040年までに追加的なプラスチック汚染をゼロにする野心が表明され、企業の積極的対応が評価される時代です。
(参照:G7広島首脳コミュニケ|外務省、マイクロプラスチック削減に向けたグッド・プラクティス集の取りまとめについて|環境省)
企業がすぐにできる対策
マイクロプラスチック削減には全バリューチェーンでの実務対応が必要です。各部門が即座に着手できる具体的対策を提示します。
製品設計/素材:マイクロビーズ代替・繊維設計でのマイクロファイバー削減
製品設計段階の素材選択が最も効果的なアプローチです。マイクロビーズは天然由来シリカビーズ(AGC)やセルロースビーズ(レンゴー)への代替が可能で、洗浄効果を維持しながら環境負荷を削減できます。
帝人フロンティアの機能性テキスタイル「デルタ®TL」は、非起毛加工の立毛構造により、保温性を維持しながら繊維くずの抜け落ちを抑制します。伊藤忠ファッションシステムの「Less Micro Plastic(LMP)」認証は、洗濯試験で基準値以下の排出を確認した製品に付与され、消費者への訴求力を高めます。
設計時のチェックポイントは、素材の耐久性向上、繊維密度と撚り数の最適化、生分解性素材への移行可能性です。
(参照:マイクロプラスチック削減に向けたグッド・プラクティス集2024年度版|環境省)
包装・資材:軽量化・代替材料・再利用設計の実務手順
包装資材の見直しは即効性のある削減策です。包装フィルムの厚みを20〜30%削減しつつ強度を維持する多層フィルム技術により、輸送効率向上とコスト削減も実現できます。
日本製紙の生分解性樹脂ヒートシール紙や、カネカの海洋生分解性バイオポリマー「Green Planet®」は海水中でも分解が進み、従来プラスチックと同等の機能性を保持します。
実務手順は、現行包装材の使用量評価、代替材の試作テスト、サプライヤーと協働した段階的切り替えです。モノマテリアル化により分別を簡素化し、リサイクル率を向上させます。
製造・物流:樹脂ペレット漏出(nurdles)防止ガイドラインとチェックリスト
樹脂ペレットは製造・輸送過程での漏出が深刻な環境問題です。日本プラスチック工業連盟は世界的な「Operation Clean Sweep®(OCS)」に参加し、漏出防止を推奨しています。
製造現場では床面の定期清掃と排水溝フィルター設置、保管エリアの密閉管理が必須です。物流段階では輸送容器の破損チェックと二重包装、積み降ろし時の飛散防止シート使用が効果的です。
チェックリストには始業前設備点検、作業終了後の清掃確認、月次漏出量測定、年次排水経路点検を含めます。
(参照:OCS活動について|日本プラスチック工業連盟、樹脂ペレットの漏出対策|日本プラスチック工業連盟)
排水処理と社内廃棄プロセス:測定方法と導入コストの目安
排水処理は製造現場からの流出を防ぐ最終防衛線です。日本化学繊維協会が国際標準化を進める測定法では、排水サンプルを濾過し顕微鏡で粒子数をカウントします。島津製作所の自動前処理装置で測定作業を効率化できます。
株式会社イトーヨーギョーのMP2フィルターは既存排水システムへの後付けが可能です。導入コストは小規模事業所向け簡易フィルターが30〜100万円、中規模工場向け専用濾過装置が300〜800万円、大規模プラント向け統合システムが1,000万円以上です。
ミズノのスポーツ施設用システムは排水口にフィルターを設置し、定期メンテナンスで継続的削減を実現しています。
事例と効果(国内/海外) — 数値で示す成功・学び
実際の企業事例を通じて、対策の具体的効果と投資対効果を確認します。数値データに基づく成果指標が、社内説得と継続的改善の鍵となります。
国内企業の取り組み:導入背景・実施内容・効果(KPI)
住友ゴム工業は、人工芝からのマイクロプラスチック流出対策として、天然素材充填材を用いた人工芝システムを開発しました。従来のゴムチップに代わり、コルクやココナッツ繊維などの天然素材を充填材に使用することで、マイクロプラスチックの流出を実質ゼロに削減しています。
ミズノは、人工芝施設向けにMP流出抑制システムを実装し、排水フィルターの設置により年間約15kgのマイクロプラスチック回収を実現しました。
帝人フロンティアの機能性衣料用テキスタイル「デルタ®TL」は、起毛加工を必要としない立毛構造により、洗濯時の繊維くず排出を抑制しています。パイル糸が切れ目なくつながった状態で編み込まれているため、抜け落ちにくい設計です。
東レは、海洋生分解する真球状ポリアミド4微粒子を開発しました。化粧品業界向けにマイクロビーズ代替品としてサンプル提供と評価を進めており、2024年度末の量産販売開始を目指しています。
海外事例:適用技術・スケール感・費用対効果
英国のマター社は、消費者向けおよび産業向けのマイクロファイバーフィルター技術を開発し、洗濯機への後付けフィルターで最大80%のマイクロファイバー排出削減を実現しています。
オーストラリアのRMIT大学は、廃棄物からリサイクルした磁性ナノ材料を活用し、わずか1時間で水中のマイクロプラスチックを除去する技術を開発しました。従来の数日かかる方法と比較して大幅な時間短縮となり、産業排水処理への応用が期待されています。
プリンストン大学の研究チームは、卵白から作成したエアロゲルで海水からマイクロプラスチックを99%の効率で除去する技術を発表し、低コストでの大規模展開の可能性を示しました。
英国プリマス海洋研究所の実験では、300匹(5kg)のムール貝を使用した生物濾過システムが、実験室の高濃度環境下で1時間あたり25万個以上のマイクロプラスチックを濾過できることが確認されました。また、実際のマリーナでの実地試験では、1日あたり約240個の粒子を回収しています。
これらの技術は初期投資を抑えつつ高い除去効果を実現し、費用対効果に優れています。
(参照:海の未来:プラスチックに取り組む技術の最前線|Back to Blue Initiative)
中小企業向けスケールダウン事例
中小企業でも低コストで実施可能なマイクロプラスチック対策が広がっています。
繊維加工業では、既存の排水設備に簡易フィルター(導入コスト30〜50万円)を追加設置することで、年間5〜10kgのマイクロファイバー回収を実現した事例があります。月次メンテナンス費用は2〜3万円程度で、大規模設備投資を避けながら効果的な削減が可能です。
化粧品製造の中小メーカーでは、マイクロビーズを天然由来のセルロースビーズに切り替え、原材料コストは約10%増加したものの、環境配慮製品として販売価格を15%引き上げ、収益性を向上させました。
町工場レベルのプラスチック成形業では、作業場の5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾)を徹底し、ペレット漏出量を月間500gから50g以下に削減、年間のペレットロスによるコスト削減効果は約20万円に達しました。
これらの事例から、中小企業は大規模投資ではなく、現場改善と既存設備の活用により、費用対効果の高い対策を実現できることが示されています。
実行フローとKPI — 社内承認〜拡大までの道筋
対策を組織的に推進するには段階的な実行計画と明確なKPI設定が不可欠です。短期・中期の具体的アクションで社内承認と継続的改善を実現します。
短期(0–6ヶ月):現状把握とパイロットの進め方
短期フェーズでは自社のマイクロプラスチック発生状況の定量評価から開始します。
第1ヶ月目は製品ライン・製造工程・排水系統を対象に発生源マッピングを実施し、主要流出ポイントを特定します。第2〜3ヶ月目は測定体制を構築し、製品別・工程別の排出量ベースラインを確立します。
第4〜6ヶ月目は投資規模の小さい対策(簡易フィルター設置、作業手順改善)をパイロットテストとして実施し、削減効果とコストを実測します。経営層への中間報告で、現状リスクと対策の投資対効果を数値で示し、本格展開への承認を得ます。
中期(6–24ヶ月):実装・評価・サプライチェーン展開
中期フェーズではパイロットで効果実証された対策を全社展開します。
第7〜12ヶ月目は製造全拠点への排水処理設備導入、製品設計ガイドライン策定、調達基準へのマイクロプラスチック配慮項目追加を実施します。
第13〜18ヶ月目はサプライヤーとの協働を開始し、原材料や包装資材の代替素材切り替えを段階的に進めます。
第19〜24ヶ月目は顧客や取引先への情報開示を強化し、削減実績をサステナビリティレポートやWebサイトで公表します。業界団体や自治体との連携も検討し、ベストプラクティス共有により業界全体の底上げに貢献します。
KPI例と測定方法(回収量、除去率、包装重量削減率など)
効果を可視化するKPIとして以下が有効です。
「排水からの回収量」はフィルターで捕捉した重量(kg/月)を測定し前年比削減率を追跡します。「除去率」は排水処理前後の濃度を比較し除去効率(%)を算出、目標値は80%以上です。
「包装重量削減率」は製品1個あたりのプラスチック包装材使用量を測定し、年次で10〜30%削減を目指します。「代替素材導入率」は全製品ラインに占める代替素材使用製品の比率を追跡します。
「ペレット漏出量」は製造現場での回収量(g/日)をモニタリングしゼロを目標とします。これらを月次でダッシュボード化し部門横断で進捗共有することで、継続的改善のPDCAサイクルを回します。
よくある課題と対処
典型的な課題と解決策を紹介します。
「代替素材のコスト増による社内抵抗」では、環境配慮製品のプレミアム価格設定や、ESG評価向上による資金調達コスト削減を含めた総合的ROI提示が有効です。
「効果測定の困難さ」では、業界団体の標準測定法を採用し外部機関による認証取得で信頼性を担保します。
「サプライチェーン全体への展開が進まない」には、主要サプライヤーとの勉強会開催や対策支援プログラム提供により協力体制を構築します。
「現場の意識が低く取り組みが形骸化」には、経営層のコミットメント明示と削減実績を人事評価に組み込むことで組織全体の意識改革を実現します。
FAQ/よくある質問
Q1. 企業がまず最初にやるべき3つは?
現状把握(発生源特定と排出量測定)、低コストで即効性のある対策の実施(簡易フィルター設置や作業手順改善)、経営層への報告と予算確保です。現状把握なしでは効果的な対策が打てないため、まずベースライン測定から始めましょう。
Q2. 導入コストの目安は?(小規模/中規模/大規模)
小規模事業所は30〜100万円(簡易フィルター・作業改善中心)、中規模工場は300〜800万円(専用濾過装置・代替素材導入)、大規模プラントは1,000万円以上(統合システム・全ライン対応)が目安です。5S活動などコストゼロで始められる対策もあります。
Q3. 中小企業が低コストでできる対策は?
既存排水設備への簡易フィルター追加(30〜50万円)、製造現場の5S活動によるペレット漏出防止(投資不要)、包装材の軽量化や再利用設計見直し(段階的導入可能)が効果的です。年間20〜50万円のコスト削減効果も期待できます。
Q4. マイクロプラスチックと微粒子の違いは?
マイクロプラスチックは5mm以下のプラスチック製粒子を指し、合成ポリマーで構成されています。微粒子は材質を問わず微小な粒子全般を指す広義の用語で、砂や金属粉なども含まれます。環境規制の対象はプラスチック製のものです。
まとめ
マイクロプラスチック対策は規制対応とESG評価向上を両立させる重要な経営課題です。現状把握から始め段階的に対策を実装することで、中小企業でも費用対効果の高い取り組みが可能です。
本記事の具体策・KPI・事例を参考に今日から行動を開始し、環境省のグッド・プラクティス集や業界団体の支援プログラムも活用して、持続可能な企業価値の向上を実現してください。

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