PFAS 規制| 日本・EU・米国の現状と企業向け実務対策
PFAS 規制| 日本・EU・米国の現状と企業向け実務対策

PFASは1万種類以上の有機フッ素化合物の総称で、耐熱性や撥水性を持つ一方、環境中で分解されにくく「永遠の化学物質」と呼ばれています。日本では米軍基地周辺での漏出や水道水からの検出が問題となり、欧米でもアメリカやドイツをはじめ多くの国で環境汚染が深刻化し、規制や監視の強化が進行中です。本記事では、日本国内の規制は化審法を中心に進められており、海外の動向と合わせて事業者が今すぐ取るべき対策を実務的に解説します。
PFASとは — 規制が進む背景と要点
PFAS(ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の総称)は、炭素—フッ素結合を多く含む合成化学物質群であり、1万種以上(注:研究者や行政の見積りに基づく)が存在するとされています。PFASは耐熱性・撥水性・耐油性にすぐれるため、衣料のはっ水加工、食品包装、半導体製造、消火用泡(AFFF)など幅広い用途で長年用いられてきました。しかし多くのPFASは環境中で分解されにくく、動植物や人体に蓄積し得る性質があるため「forever chemicals(永遠の化学物質)」と呼ばれ、世界的に懸念が高まっています。
特に代表的な化合物である PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸) と PFOA(ペルフルオロオクタン酸) は、環境残留性・生体蓄積性・健康影響が問題視され、国際条約(ストックホルム条約)で除去(Annex A)対象に指定されるなど、各国で製造・使用の削減・禁止措置が進められています(ただし条約上の決定には例外・猶予措置が存在し得ますので、各国の国内法の具体的運用は個別に確認が必要です)。
健康影響については、疫学・毒性学の蓄積により 血中コレステロール上昇、免疫反応の低下、ホルモン・肝機能影響、妊娠や発育への影響、またPFOAについては発がん性の認定(IARC による評価)などが示唆 されています。こうした知見を踏まえ、各国は飲料水基準や化学物質規制の強化に動いています。
このような性質(難分解性・生体蓄積性・潜在的な健康影響)と、用途の広さが重なったため、規制当局は「個別物質規制」と「包括的なグループ規制(例:REACHでのPFAS包括制限提案など)」の双方を検討・実施しており、事業者は製品・原材料の含有確認、排水や廃棄の管理、代替技術の検討を早急に進める必要があります。
日本のPFAS規制:現状と事業者が取るべき対応
日本国内は主に化審法に準ずる形でPFASが規制されており、2025年3月時点で規制対象となっているのはPFOS、PFOA、PFHxSの3物質です。水質基準についても段階的な強化が進められており、事業者は法令遵守と実務対応の両面で準備が必要です。
指定物質(PFOS・PFOA・PFHxS等)の扱い
PFHxSは2024年2月1日に第一種特定化学物質に追加指定され、既に規制が開始されています。さらに2024年7月5日にPFOAの関連物質(PFOAの分枝異性体及びペルフルオロオクタン酸関連物質)の第一種特定化学物質への指定が閣議決定されました。PFOAの分枝異性体は2024年9月10日より、PFOA関連物質は2025年1月10日より段階的に施行されました。化審法における第一種特定化学物質に指定された物質は、製造・輸入・使用が原則禁止となります。
水質に関する対応として、厚生労働省は2020年4月にPFOSおよびPFOAを水質管理目標設定項目に指定し、暫定目標値を合計で50ng/L以下としています。また2021年4月にはPFHxSを水道水の要検討項目に追加しました。令和7年5月8日に中央環境審議会において水道における水質基準等の見直しについて答申され、同年6月30日に関係省令が公布されました。令和8年4月1日より施行される予定です。
事業者チェックリスト:届出・分析・廃棄・代替の優先順
事業者が優先的に実施すべき実務対応を、以下のチェックリストで確認してください。
【優先度:高】即時対応事項
・自社製品・原材料中のPFOS/PFOA/PFHxS含有状況の確認
・化審法に基づく製造・輸入実績の有無確認と必要な届出
・排水中PFAS濃度の測定と水質汚濁防止法への対応
【優先度:中】3ヶ月以内の対応
・サプライチェーン全体でのPFAS使用状況の調査
・代替物質・代替技術の情報収集と導入可能性の検討
・ 在庫品・使用済み製品の適切な保管・廃棄方法の確立
【優先度:低】継続的な対応
・海外規制動向(EU REACH規則、米国EPA基準等)のモニタリング
・業界団体や専門家会議の情報収集
・社内管理体制の構築と従業員教育
【日本・EU・米国のPFAS規制比較表】
| 項目 | 日本 | EU | 米国 |
|---|---|---|---|
| 主要法令 | 化審法、水質汚濁防止法 | REACH規則、POPs規則 | TSCA、飲料水規則(NPDWR) |
| 対象物質 | PFOS、PFOA、PFHxS(3物質) | 約1万種類のPFAS(包括規制案) | 2024年4月に6物質(PFOA、PFOS、PFHxS、PFNA、HFPO-DA、PFBS)のNPDWRを最終決定。2025年5月にPFOA・PFOSを除く4物質(PFHxS、PFNA、HFPO-DA、PFBS)の規制を撤回・再検討する方針を発表し、PFOA・PFOSの2物質のMCL(各4 ng/L)維持を表明 |
| 飲料水基準 | 50 ng/L(PFOS+PFOA合計、暫定) | ①Sum of PFAS:100 ng/L、②PFAS Total:500 ng/L | PFOA・PFOS各4 ng/L(MCL、法的拘束力あり) |
| 施行状況 | 段階的強化中(2026年4月本格施行予定) | 2025年包括規制案審議中 | 2024年4月に6物質の規制を最終決定。2025年5月に規制をPFOA・PFOSに絞り、遵守期限を2031年に延期する方針を発表 |
海外のPFAS規制動向(EU・米国)と日本への影響
EUと米国は日本より先行してPFAS規制を強化しており、その動向は日本企業の輸出や調達にも直接的な影響を与えます。特にEU向け製品の輸出や米国市場での事業展開を行う企業は、各国の規制内容を正確に把握する必要があります。
EU(REACH・消火泡規制)のポイント
EUでは2025年1月に包装および包装廃棄物に関する規則(PPWR)が公布され、2025年2月11日に発効しました。2026年8月12日からEU全域で適用され、食品包装材におけるPFASの使用が制限されます。欧州5か国(ドイツ・デンマーク・オランダ・ノルウェー・スウェーデン)は2023年1月にREACH規則附属書XVIIの制限提案として有機フッ素化合物(PFAS)規制案を提出し、同年2月7日にECHAが公表しました。
2024年から各セクターについての暫定的な評価が進められており、2025年8月に更新された提案文書が公表されました。RAC(リスク評価委員会)とSEAC(社会経済分析委員会)は2025年9月と12月の会合で横断的事項について議論を継続する予定です。両委員会の最終意見は2025年末から2026年初頭に期待されており、その内容が公表されるまで評価は継続中です。欧州委員会による最終決定とその後のEU加盟国との協議を経て、最終的な規制実施は2026年末から2027年頃になる見通しです。
米国(EPAの飲料水規制・州規制)のポイント
2024年4月10日に米国環境保護庁(EPA)がPFASの第一種飲料水規則(NPDWR)を最終決定し、6物質(PFOA、PFOS、PFHxS、PFNA、HFPO-DA(GenX)、PFBS)を対象としました。PFOSとPFOAのMCL(最大汚染物質濃度)は各4ng/Lと定められ、これまでのEPA勧告値が両物質合計で70ng/Lだったのに比べ大幅に厳しくなりました。
ただし、2025年5月14日にEPAは方針を変更し、規制対象をPFOAとPFOSの2物質に絞り、残り4物質(PFHxS、PFNA、HFPO-DA、PFBS)については規制を撤回・再検討するとしました。また、水道事業者の遵守期限を2029年から2031年に延期する方針を示しています。
事業者向けテンプレ&消費者Q&A
実務担当者が現場で即座に活用できるチェックリストと、消費者からの問い合わせに対応するためのQ&A集を用意しました。これらを参考に、社内体制の整備と顧客対応の準備を進めてください。
事業者テンプレ:実務チェックリスト
製造・輸入事業者向け確認事項
□ 化審法第一種特定化学物質(PFOS/PFOA/PFHxS)の使用有無
□ 製品含有濃度の分析実施(検出限界:1 ppm以下推奨)
□ サプライヤーへの含有調査票の送付と回収
□ EU向け輸出製品のREACH規則適合確認
□ 米国向け製品の州別規制(メイン州・ミネソタ州等)の確認
排出・廃棄管理
□ 排水中PFAS濃度の定期測定(四半期ごと推奨)
□ 使用済活性炭の適切な保管と処理委託
□ 産業廃棄物処理業者への情報提供義務の履行
代替品検討
□ 業界団体の代替技術情報の収集
□ フッ素フリー製品への切り替え可能性評価
□ 代替品の性能・コスト比較の実施
消費者Q&A:家庭・食品包装・飲料水はどうする?
Q1. 自宅の水道水は安全ですか?
A. 日本では暫定目標値がPFOS及びPFOAの合計で50 ng/L以下と設定されており、水道事業者が定期的に検査を実施しています。自治体の水質検査結果は各水道局のウェブサイトで公開されています。
Q2. フッ素加工のフライパンは使って大丈夫?
A. 過去にフッ素コート剤の製造過程でPFOAが使用されていたこともありますが、2015年末までに企業の自主的な取り組みとしてその使用が全廃されました。現在販売されている製品は基本的に安全です。
Q3. 食品包装材からPFASは検出されますか?
A. 2024年8月11日、「大阪PFAS汚染と健康を考える会」と京都大学による血液検査の結果、大阪府摂津市と大阪市東淀川区で地場産野菜を食べる人の血中PFOA濃度が高いことが判明しました。摂津市民の平均値は9.8ng/mL、摂津市民と東淀川区民を合わせた平均値は8.1ng/mLで、いずれも全国平均(2.2ng/mL)を大きく上回りました。特に地場産野菜を摂取している住民で濃度が高い傾向が確認されています。
Q4. 家庭でできる対策はありますか?
A. 浄水器(逆浸透膜式または活性炭式)の使用、PFASフリー表示のある製品の選択、撥水加工製品の過度な使用を避けることなどが有効です。
まとめと今後の注目点(輸出・代替・規制強化の見通し)
PFAS規制は日本・EU・米国で急速に強化されており、事業者は化審法対応、サプライチェーン管理、代替技術の導入を早急に進める必要があります。日本では2025年以降PFHxSの規制が本格化し、EUでは2026年以降に包括的な規制が段階的に実施される見通しです。
今後の注目点は以下の3つです。輸出面では、EUの規制動向は他国の政策にも影響を与える傾向があり、日本国内の規制強化にも波及することが予測されます。代替技術では、フッ素フリー素材の開発が加速しており、業界団体や研究機関の情報を継続的に収集することが重要です。規制強化では、2025年に予定されているPFAS規制案の最終決定が欧州委員会による承認が不可欠とされており、その内容次第で世界的な規制の流れが大きく変わる可能性があります。企業は最新の規制情報を常にモニタリングし、先手を打った対応を心がけましょう。
【参考情報リンク】
環境省「有機フッ素化合物(PFAS)について」
欧州化学品庁(ECHA)「PFAS制限提案」
米国環境保護庁(EPA)「PFAS規制情報」
経済産業省「化審法関連情報」