海洋プラスチックごみ対策|企業・個人の成功事例と実践法
海洋プラスチックごみ対策|企業・個人の成功事例と実践法

世界の海には河川を通じて毎年80万〜270万トンものプラスチックごみが流出しており(Meijer et al., 2021)、2050年には海洋プラスチックの重量が魚の重量を上回るという衝撃的な予測が現実味を帯びています。
日本近海では、表層のマイクロプラスチック濃度が世界平均の約27倍に達するなど、深刻な状況です。しかし、この問題は決して他人事ではありません。海洋プラスチックごみの約8割は、私たちが暮らす陸域から流出しています。
今、一人ひとりの行動が、美しい海を未来に残せるかどうかを決める重要な分岐点に立っています。本記事では、海洋プラスチック問題の現状から、個人や企業ができる具体的な対策まで、実践的な情報をお届けします。
海洋プラスチックごみ問題とは?3分でわかる現状と影響
海洋プラスチック問題は、今や地球規模での緊急課題となっています。プラスチック製品が適切に処理されず、風や雨により河川を通じて海に流れ込み、海洋環境や生態系に深刻な影響を与えています。
数字で見る海洋プラスチック問題の深刻度
2021年の研究(Meijer et al., Science Advances)では、河川からの流出量は年間80万〜270万トンと推定されています。2024年には環境省が日本からの海洋プラスチックごみ流出量を年間約1.3万〜3.1万トンと推計しています。
海洋中に存在するプラスチックごみの総量は、推計方法により数千万トンから数億トンと幅広く推定されており、2016年の世界経済フォーラムでは、2050年までに海洋中の魚の重量よりもプラスチックごみの量が上回るという予測が示されました。
日本近海では、表層のマイクロプラスチック濃度が世界平均の約27倍にも達しており、東アジアと東南アジアで海に流出したプラスチックごみが黒潮に乗って流れ着くため、日本周辺はマイクロプラスチックのホットスポットと呼ばれています。
海洋プラスチックが引き起こす3つの深刻な影響
海洋プラスチックごみは、海洋環境に多層的なダメージを与えています。
第一に、海洋生物への直接的な被害として、プラスチック製の漁網や漁具への絡まり(エンタングルメント)があり、国際捕鯨委員会(IWC)によると年間30万頭以上のクジラ・イルカ類が漁具への絡まりにより死亡していると推定されています。また、プラスチック片をエサと間違えて誤食する魚類や海鳥も多く、消化できないプラスチックが体内に蓄積され、栄養不足や死に至るケースが後を絶ちません。
第二に、マイクロプラスチックによる人体への潜在的リスクがあります。5ミリ以下に砕けたマイクロプラスチックは、食物連鎖を通じて私たち人間の食卓にも届く可能性が指摘されています。
第三に、漁業や観光業への影響、船舶運航の障害、沿岸地域の環境悪化など、経済活動にも深刻な打撃を与えています。
プラスチックごみが海に流れ込むメカニズム
海洋プラスチックごみの流出ルートは大きく2つあり、1つは陸からの流出で、これが全体の約8割を占めています。国民生活や事業活動に伴い陸域で発生したプラスチックごみの一部が、ポイ捨てや不適切な廃棄により環境中に排出された後、雨や風に流され、河川などを経由して海域に流出するのです。
もう1つは、漁業やマリンレジャーなど、海域で使用されるプラスチック製品が直接海域に流出するケースです。このメカニズムを見れば、海洋プラスチック問題は海岸地域だけでなく、内陸部も含めたすべての地域での共通の課題であることがわかります。
【実践編】今日からできる海洋プラスチックごみ対策7選
海洋プラスチック問題の解決には、一人ひとりの行動変容が不可欠です。日常生活で実践できる具体的な対策から、地域社会とつながる活動まで、私たちにできることは数多くあります。
すぐに始められる!日常生活でのプラスチック削減法
日常生活の中で、プラスチックの使用を減らす取り組みは誰でもすぐに始められます。
対策1:マイバッグ・マイボトルを持ち歩く
最も手軽で効果的な方法です。2020年のレジ袋有料化により、「1週間レジ袋を使わなかった人」の割合は約3割(30.4%)から7割以上(71.9%)に増加しました。マイボトルの活用も、年間約267億本(2023年度)生産される清涼飲料用ペットボトルの消費削減に直結します。最近ではマイボトル持参で割引が受けられるカフェやコンビニも増えており、環境にも財布にも優しい選択ができます。
対策2:使い捨てプラスチック製品を避ける
プラスチック製ストロー、カトラリー、容器などを、竹製や紙製、ステンレス製の代替品に置き換えましょう。
対策3:詰め替え製品を積極的に選ぶ
プラスチック容器の廃棄量を大幅に削減できます。シャンプーや洗剤など、詰め替え用パックを選ぶだけで、容器の廃棄量を約70%削減できる製品もあります。ボトル本体が丈夫で長く使えるものを選ぶと、より効果的です。
対策4:プラスチックごみを正しく分別・リサイクルする
資源の有効活用につながります。自治体のルールに従った分別を徹底し、リサイクル可能なものは確実にリサイクルに回しましょう。
地域で取り組む!社会とつながる3つの行動
個人の取り組みに加えて、地域社会とつながることで、より大きな影響力を生み出すことができます。
対策5:海ごみゼロウィークなど清掃活動に参加する
直接的な海洋ごみ削減につながります。環境省や自治体が主催する清掃イベントに参加することで、問題の実態を肌で感じ、仲間とともに行動する喜びも味わえます。
対策6:エシカル消費で環境配慮型製品を選ぶ
企業の行動を変える力になります。海洋プラスチックをリサイクルした製品や、生分解性プラスチックを使用した商品、過剰包装を避けた製品を積極的に選びましょう。
対策7:SNSで情報発信し啓発活動を行う
影響の輪を広げられます。環境省の「プラスチック・スマート」キャンペーンでは、「#プラスチックスマート」のハッシュタグをつけて個人の取り組みを発信することを推奨しています。
さらに深く学ぶ|プラスチック・スマートという考え方
環境省が推進する「プラスチック・スマート」は、2018年に立ち上げられたキャンペーンで、個人・自治体・NGO・企業・研究機関など幅広い主体が連携協働して、プラスチックとの賢い付き合い方を推進する取り組みです。
このキャンペーンの核心は、「プラスチックを完全にゼロにする」ことではなく、「プラスチックと賢く付き合う」という現実的なアプローチにあります。プラスチック資源循環戦略では、3R+Renewable(リデュース・リユース・リサイクル・再生可能資源)の基本原則が掲げられています。使用量を減らし(Reduce)、繰り返し使い(Reuse)、資源として再利用し(Recycle)、再生可能な素材を選ぶ(Renewable)という4つの視点で、持続可能なプラスチック利用を目指しています。
【成功事例】企業・自治体・政府の海洋プラスチック対策
海洋プラスチック問題の解決には、政府・自治体・企業による組織的な取り組みが重要です。日本では、法制度の整備から先進的な技術開発まで、多様なアプローチで対策が進められています。
日本政府の海洋プラスチックごみ対策
日本政府は、海洋プラスチック問題に対して包括的な政策を展開しています。
2022年4月に施行されたプラスチック資源循環法は、製品の設計から廃棄物の処理まで、プラスチックの商流全てにおける資源循環の取組を促進するための法律です。この法律により、企業には環境配慮設計や使い捨てプラスチック製品の提供削減が求められ、自治体にはプラスチック資源の分別収集・再商品化が義務付けられました。
また、環境省が策定した海洋プラスチックごみ対策アクションプランでは、回収・適正処理の推進、3R+Renewableの推進、代替イノベーションの推進など、具体的な行動計画が示されています。
2019年のG20大阪サミットでは、2050年までに新たな海洋プラスチック汚染をゼロとすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が共通のグローバルビジョンとして掲げられました。
国際的な動きとして、2022年3月の国連環境総会で「プラスチック汚染を終わらせる:法的拘束力のある国際約束に向けて」が採択され、プラスチック汚染に関する国際条約の策定に向けた政府間交渉が進んでいます。2025年現在も交渉は継続中であり、日本からは環境省参与がアジア太平洋地域の代表理事(副議長)を務め、国際交渉に積極的に参加しています。
先進自治体の取り組み事例
全国の自治体では、地域の特性を活かした独自の取り組みが進んでいます。
横須賀市は、海洋都市として「横須賀市海洋プラスチックごみ対策アクション宣言」を発表し、市民・企業・行政が一体となった清掃活動や環境教育を推進しています。
大阪府では、「OSAKAごみゼロプロジェクト」を展開し、大阪ブルー・オーシャン・ビジョンの発祥地として府内全域でプラスチックごみ削減キャンペーンを実施しています。
福岡県は、プラスチック資源循環促進事業を通じて、県内企業の環境配慮型製品開発を支援し、産学官連携の取り組みを推進しています。
企業の革新的な海洋プラスチック対策
民間企業でも、革新的な取り組みが広がっています。
パイロットコーポレーションは、2020年12月に海洋プラスチックごみからリサイクルした再生樹脂を使用した国内初の油性ボールペン「スーパーグリップG オーシャンプラスチック」を発売しました。テラサイクルジャパンが日本国内で回収した海洋プラスチックごみを原料として使用し、価格は既存商品と同じ110円に抑えることで広く普及させることに成功しています。
花王は詰め替え製品の普及に長年取り組み、詰め替え用パックの使用により容器の廃棄量を約70%削減することに貢献しています。さらに海洋で分解される生分解性プラスチックの開発にも注力しています。
マンダム・資生堂は洗顔料のマイクロビーズを植物由来原料に完全切替え、製品から直接海洋に流出するマイクロプラスチックを削減しました。
アダストリアは洗濯時の繊維くず流出を80%抑制する専用洗濯ネットを開発し、ファッション業界特有のマイクロプラスチック問題に取り組んでいます。衣類の洗濯から発生する繊維くずは見過ごされがちですが、海洋マイクロプラスチックの主要な発生源の一つです。
【FAQ】海洋プラスチックごみ対策でよくある質問
Q1. 個人の取り組みは本当に効果がありますか?
個人の行動変容は、確実に社会全体に影響を与えます。2020年のレジ袋有料化では、一人ひとりがマイバッグを持つという行動の積み重ねにより、レジ袋の辞退率は3割から7割以上に増加しました。これは年間数十億枚のレジ袋削減を意味します。
また、消費者の選択が企業の製品開発を変える力も見逃せません。環境配慮型製品を選ぶ消費者が増えることで、企業はより持続可能な製品開発に投資するようになります。実際、パイロットコーポレーションの海洋プラスチックリサイクルボールペンは発売以来人気を集め、企業の名入れノベルティとしても採用されるなど、消費者の環境意識の高まりが製品の成功につながった好例です。
さらに、個人が清掃活動やSNSでの情報発信を通じて周囲に影響を与えることで、行動の輪は確実に広がっていきます。一人の力は小さくても、多くの人が行動すれば、大きな変化を生み出せるのです。
Q2. バイオプラスチックは海洋プラスチック問題の解決策になりますか?
バイオプラスチックには期待と課題の両面があります。植物由来の「バイオマスプラスチック」は石油資源の使用を減らせますが、必ずしも生分解性があるわけではありません。一方、「生分解性プラスチック」は特定の条件下では分解されますが、海洋環境では分解に長い時間がかかる、または分解されないケースも多いのが実情です。
また、生産には農地や水資源が必要となり、食料生産との競合も考慮する必要があります。バイオプラスチックは万能の解決策ではなく、従来のプラスチック削減・リサイクル推進を組み合わせた総合的なアプローチが求められます。
Q3. 日本の海洋プラスチックごみ対策は世界と比べてどうですか?
日本の対策は、世界的に見ても先進的な取り組みを進めています。2019年のG20大阪サミットで提唱された「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」は、国際的な目標設定に貢献しました。2022年施行のプラスチック資源循環法は、製品設計から廃棄まで包括的に規制する先進的な法律です。
日本のプラスチック有効利用率は約87〜89%(2022-2023年)と高水準ですが、この内訳はサーマルリサイクル(熱回収)が約62〜64%を占めており、国際基準でリサイクルとして認められるマテリアルリサイクル・ケミカルリサイクルの比率は約25%にとどまります。マテリアルリサイクルの比率を高めることが今後の課題です。
まとめ|海を守る行動は今日から始められる
海洋プラスチック問題は深刻ですが、解決への道は開かれています。マイバッグを持つ、詰め替え製品を選ぶ、清掃活動に参加するなど、一人ひとりができることから始めましょう。企業や自治体の先進事例も参考にしながら、プラスチックと賢く付き合う生活を実践することが大切です。
2025年8月、スイス・ジュネーブで開催されたINC5.2会合でも最終合意には至らず、今後の交渉再開時期は未定となっていますが、世界全体でプラスチック問題に取り組む機運は引き続き高まっています。私たち一人ひとりの行動が、この国際的な流れを後押しする力になります。
美しい海を未来世代に残すため、今日から行動を起こしましょう。
参考文献
・Meijer et al., 2021 “More than 1000 rivers account for 80% of global riverine plastic emissions into the ocean”, Science Advances
・World Economic Forum & Ellen MacArthur Foundation, 2016 “The New Plastics Economy”
・環境省「プラスチック資源循環法」「プラスチック・スマートキャンペーン」「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」
・パイロットコーポレーション プレスリリース

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